殺人も略奪も。
どんな犯罪も罪にはならない。

――――――-それが、個人の頭の中だけのことなら。


誰にも知られずひっそりと、犯される罪。

だが誰に罰せられることがなくとも、自分自身は知っている。

繰り返し、自己の中で積み重ねられる罪。

降り積もるのは罪悪感と。




―――――誤魔化しようも無い誘惑だった。









「あいつにも夢があって、そのために努力するヤツだから」

そういって目の前の簡易ベッドに腰を掛けて、アスランが言う。
微笑みさえ浮かべて語る『あいつ』というのは、ザフトの現エースパイロットのことだ。
その少年への親近感は、かつては彼の部下でありアカデミーの後輩でもあるという点でいえば分からなくもないが、当の本人に受けた仕打ちを考えれば笑いながら語ることなど普通は出来ないだろう。
その彼、―――――-シン・アスカこそが僕のフリーダムをアスランの目の前で撃ち落とし、さらにはアスランをも新型ＭＳで海面に叩き落して生死を彷徨うほどの傷を与えたのだから。

さらにもうひとつ。

緊急手術の後、アスランの容態の報告の際に医師から聞いた、彼の傷跡。
それは内容が内容だけに、『親友』の僕にしか語られなかったけれど。

アスランの、肢体に刻まれた傷。
ＭＳの爆発や衝撃により受けた致命傷に近い傷に比べれば大したことはないのかもしれないソレは、だが精神的には身体的なものより深く君を抉り苦しめたに違いない。

強く擦られて腫れた内壁。切れて直りきらない秘口の傷。

誰が見てもそれが愛の証やお互いの希望の上でつくられたものとは思えないだろう。
医者の話では相手は複数かもしれない、というのだから。

その中に、アスランの言う『あいつ』もいたのだろうか。

――――――こんなことになるなら、あんな艦、墜としてしまえば良かった。
僕は君の顔をぼんやり眺めながら、そんなことを考える。
アスランが思うほど、僕はその手段に戸惑いを覚えるわけじゃない。
ただ『出来るから』、その方が自分の気が楽だから致命傷を避けているだけなのだ。


まだ「あいつ」について話している君。
ちりちりと、胸の奥を不快な感覚が焼く。
焼き切れてしまったら、お終いなのに。


「あいつ」なんじゃないの？
アスランを傷つけたのは。

一度で出来たモノではなさそうだという話だ。。
２度目も奪われたのか、それとも許したのか。

どうやって抱かれたの？
泣いたの？叫んだ？僕の名前を呼んだかな？
ねぇアスラン、怖かった？
誰かの前で怯えた顔をしたの？それが男を煽るとも知らずに。
ああ、花を散らしたのが僕じゃないなんて。

清廉で、無防備でそういう感情には気持ち悪いくらい幼い君。
カガリと好意を寄せ合いながら、まだ優しいキスだけの関係だと知っている。
相手を奪い、奪われるような、そんなキスもしたことがなかっただろうに。


僕が何も知らない、気付かない振りをしてるから、君はすっかり安堵してる。

君が「親友」の僕に求めてるもの。
それは信頼、友愛。そんな穏やかなもの。
僕が君に求めるのが恭順や服従だと知ったらどう思う？
僕は君を守ってあげたい。
でもそれは君が僕の庇護下にあってのこと。
君が僕だけを見て、僕だけのものでいるなら、どこまでも優しく君を守る盾でいられるのに。

でも実際は。
喚起される破壊衝動。
刺激される支配欲、独占欲。
暴いてメチャクチャにしてやりたい。
だって君はちっとも大人しくしていない。
いつも僕以外の誰かを気にして、傷ついて。
そういうの見てると堪らなくなる。
シンて子の気持ちは分かるよ。
きっと優しくしてあげたかったろうに、状況も心情も許さなかったんだろう。
戦いは、人の理性とあるべき優しさを奪ってゆく。
僕もその一人で、だからこそ戦いを憎むのだ。
優しさを弱さだと切り捨て痛みに目を瞑り戦場に向かう者にとって、優しさで惑う君の悲鳴はとても甘い。自分の捨てた綺麗なものを踏み躙るのは快感だから。
君の悲鳴はさぞイイ精神安定剤になっただろう。
ただその効果が一時的なもので、しかも麻薬のように常習性があっただけだ。
君を失くして、今、彼は心を病んでいるだろうね。かつての僕がそうであったように。
苦痛を必死に堪えてるだろうね。
『痛み止め』は手元にいない。
ざまあみろ。

可哀想に。同情するよ。
シン、て子に。
ああ、凄く気に喰わないのに、僕と彼は凄く似てるね。

アスランには、……まぁ僕を完全に信用してる君には少し申し訳なく思うけど。

君はまだシンの話をしている。
楽しそうに、懐かしそうに。
なに？それ。どこまで君はバカなの。
君はその子に酷い目に合わされたってのに。
ムカムカするよ。

だから僕は。

「アスランは、そのシンって子が好きだったの？」
「えっ…？」
衝動を抑えきれずに。

「でも、その子に君はレイプされたんでしょう？」

言ってやりたくなった。
アスランの動きが止まる。
「キ…ラ？」
「医者から聞いたんだ。身体の、傷のこと」
僕は口に笑みを佩きながら続けた。

「誰かに、レイプされた痕跡があったって」
それも何度も。
「合意とは思えないって聞いてたけど、もしかして違ったの？」
「それ、は…」
君が小刻みにガクガクと震える。
怯えてるのは彼の仕打ちを思い出したから？それとも目の前の僕が怖いの？
「…でも、あいつを追い詰めたのは、俺かもしれなくて…」
何ソレ。
どんな理由があったって、暴行は暴行でしょ。
それとも、あんな傷貰っといて合意だったとでも言うの？

ねぇ君は、もしかしてホントにそいつが好きだったの？
あー。ムカつく。
「…もしかして、アスランってそういうプレイが好きなの？」
「なっ！！違う！」
「じゃあやっぱり、シンて子はレイプ犯なんじゃん」
「違っ！シンは…っ！あれはっ！多分、仕方なくて…！」
「彼を許すの？」
「え？」

「じゃあ僕も許してよ」

「なに…」
軽いパニック状態のアスランを僕は引き倒した。
「やっ…キラ？！」
毟るようにまだ彼に馴染んでいないオーブの軍服を剥ぎ取る。
僕一人の拘束なんて普段なら軽く押し退けられる君が、レイプの後遺症からか、面白いくらい混乱していて僕の思いのままにされている。
剥き出しにした胸の突起に吸い付きながら、下肢に手を延ばすと悲鳴が上がった。

「イヤ！イヤだ！怖…っ…！ひァっ！！」

SEXが怖い男なんてあり得ないよ。
あはは。もう君、女の子なんて抱けないね。
でもそれは好都合。カガリには悪いけど。

つーか、シン。君、好きな子相手にどんな抱き方したの。
まぁ『そんな酷いことするなんて信じられない！』なんて僕は決して言わないけど。
むしろアスランに限っては、苛々してメチャクチャにしてしまったシンの気持ちの方がよく分かる。
きっとアスラン自身には一生理解できないだろう。


苛立つのは、そいつじゃなくて、アスランに。
何でも許してしまう君に。
その寛容さが腹立たしい。
その寛容さで僕を許したように、彼のことも許してしまったのだろうけど。
じゃあ君はどこまで許してくれるの？

乱暴な愛撫に君は怯えて泣いてる。
そんな顔を、あいつにも見せたの？
可哀想に、と頭のどこかで他人事のように思いながら、嗜虐心と独占欲でゾクゾクする。
やめてくれ、キラ、と泣きながら訴えるアスランを嘲笑うように、歓喜すら伴って僕は君に狂気を押し込んだ。



本当は、君は誰も、許しちゃいけなかったんだ。
だから君はいつでも付け込まれて、食い散らされて、傷ついて血を流す。
そして許された人間も、醜く歪んでダメになる。僕のように。

君の譲れないものは、綺麗すぎて実態がなく、僕らの目には見えやしない。


「いや…っ、…あ！、…ひィ、痛いっ…、やぁっ…！」
直ったばかりのそこは傷つきやすく、すぐに朱赤の筋がいくつも延びた。


ねぇ、君が嫌なのは傷付けられること？略奪されること？
それとも君が求め、夢見る世界が、僕を含めて実は残酷で矛盾だらけの下らないものだと暴かれること？







「…ラ、キラ！」
「えっ？」

ふいに呼ばれて僕は我に返った。
「キラ、どうした？さっきから呼んでるのにボーっとして」
折角話してるのに、と僕だけに見せる少し拗ねた表情でアスランが言った。

「ううん、なんでもない」
そういって僕は笑う。
「疲れてるなら、もう寝るか」
「うん。そうだね。また、明日も忙しいから」
世界は目まぐるしく混沌としていて、僕とアスランの二人きりにはしてくれない。
溜息を吐きたくなった僕に、アスランは笑って言った。

「…これから本当に忙しくなるし、大変になるだろうけど俺は平気だ。キラと一緒なら諦めない」
「…………うん、僕も」


君は気付きもしない。
親友だと心を許している目の前の男の、その頭の中でたった今、犯されていたことを。

なんて心は自由で、そうしてままならないことか。

君を裏切りたくはないけれど。
君を心の中で汚す度に、僕は罪悪感で押し潰されそうになるけれど。
いつかそれを欲望が凌駕して、君は思い知るのかもしれない。

彼と僕が同じモノであることを。
ただ単に、僕には彼より、君との綺麗な思い出が多くて、つまりはストッパーが多少多かっただけだったんだということに。



いつか―――――。

その日を僕は、心待ちにしているんだ。





人の心は世間のしがらみや常識から全くの自由で、そうして誰にも触れられない。
僕がアスランの胸のうちを知りようが無いように。
君に僕が頭の中で日々重ねている罪を知る術は無い。


君が世界を諦めるとき。
その切っ掛けは僕なのかもしれない。












（ＥＮＤ）

45話ら辺？妄想癖のあるキラさま…。AAで海底にいたとき、外を見ながらいろいろシュミレーションとか「〜なんちゃって」とか無駄に時間潰してたんだろうな…。
今日の妄想ではアスラン、清純ちゃんだったけど、淫乱なアスランVerとかも考えてそう。
「…君が誘ったの？」みたいな。

……どんなキラ様ですか…。
あ、でもコレ、「私刑」に微妙にリンクしてるね！いや、今決めた。アレの後だ！←安直だな、オイ。